• Association of Hokkai-Gakuen University Scholars Opposed to the Security-related Bills

  • 声明 安全保障関連法案の撤回を求めます

    北海学園大学教員有志

    自衛隊法改正案など既存の10の法律の改正案を一本化した「平和安全法制整備法案」と、新設の「国際平和支援法案」からなる包括的な安全保障関連法案(以下、安保法案)が、現在参議院で審議中です。北海学園大学教員有志は、この法案の撤回を強く政府・与党に求めます。

    反対の理由は以下です。

    第一に、この法案は、民主的な手続きにもとるからです。この法案は、「国際平和支援法案」の新設(外国軍の後方支援などの合法化)のほか、自衛隊法改正(外国軍の武器防護のための自衛隊による武器使用の合法化など)、周辺事態法の重要影響事態法への改称・改正(外国軍への後方支援の地理的限定の撤廃、外国軍の弾薬輸送の合法化)、船舶検査法(世界中での船舶臨検の合法化)、国際平和維持活動協力法(PKOに参加した自衛隊の任務の「駆け付け警護」や「治安維持活動」への拡大)、武力攻撃事態対処法(「存立危機事態」の新設、その際の海外での武力行使の合法化)、米軍行動関連措置法の米軍等行動関連措置法への改称・改正(「武力攻撃事態」や「存立危機事態」における自衛隊の支援対象を米軍以外にも拡大)、特定公共施設利用法(「武力攻撃事態」の際の港湾や飛行場などの利用を米軍以外にも拡大)、海上輸送規制法改正、捕虜取扱法改正、国家安全保障会議設置法の改正に至る広範な内容となっています。にもかかわらず審議時間は十分とはいえません。

    また政府は昨年7月1日、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更と武力行使の「新3要件」を閣議決定しました。さらに今年4月27日の「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)の発表に続く4月30日の米国議会での演説において、安倍首相は安保法案の成立を目指す旨を「対米公約」として先に宣言しています。その後、法案は5月14日に閣議決定され、翌15日国会に提出されています。このような手順は、国民の代表機関である国会を軽視するばかりか、独立国であることへの疑いさえ禁じえません。7月の衆議院の委員会および本会議における与党のみでの法案採決の強行も、幅広い合意の形成という民主主義のルールに反します。

    第二に、この法案は近代国家の根本原理の一つである立憲主義の原則を逸脱しています。集団的自衛権の行使が日本国憲法9条に違反することは、多様な憲法学者の間のコンセンサスとなっています。法治国家である以上、下位法の制定で上位法である憲法の規定が無効になるはずもなく、また行政府による解釈変更だけで集団的自衛権の行使が合憲になるはずもありません。

    第三に、この法案では武力行使に対する歯止めが不十分です。日本は、日中戦争から太平洋戦争に至る軍の暴走による惨禍を経験しました。その原因の一端が、陸海軍の行動を統制する仕組みを明治憲法体制が欠いていたことにあることは、歴史学や政治学の定説となっています。数多の曖昧な規定を含んでいる今回の安保法案は、その轍を踏む恐れがあります。例えば集団的自衛権に基づく武力行使が認められるという「存立危機事態」の定義は抽象的ですが、安倍首相は、具体的には「政府が総合的に判断して認定する」としており、行政の裁量が法的に限定されていません。このことは、昨年12月に国会で可決成立した特定秘密保護法に基づく報道の自由や国民の「知る権利」の制限と併せて、自衛隊の文民統制を弱めることにもつながります。

    さらに「周辺事態法」を変更した「重要影響事態法案」においては、自衛隊の活動の地理的制約が撤廃され、世界中どこでも活動可能になるほか、外国軍への「後方支援」活動も可能にし、これには「武器の提供は含まない」としながら、弾薬の提供や武器・外国軍兵士の輸送は認めています。8月上旬の参議院における審議で中谷元防衛大臣は、ミサイルや核兵器、クラスター爆弾さえも「弾薬」に当たり、その輸送が法案上排除されないことを認めています。また後方支援は脆弱性が高いがゆえに、自衛隊が攻撃されるリスクを格段に高めています。

    第四に、政府は法案提出の理由として、「日本を取り巻く安全保障環境の変化」を再三強調していますが、情勢分析がまったく不十分です。中国との経済的相互依存が強まる中、中国の脅威をことさらに強調しても説得力を欠くばかりか、かえって軍事的緊張を高めかねません。その結果、軍備拡張競争が始まり、国家財政や国民生活を圧迫する事態にもなりかねません。加えて、集団的自衛権を根拠とした欧米諸国のアフガニスタンへの軍事介入が泥沼化しているのは周知の通りです。漠然とした「国際社会への貢献」を掛け声にして、対テロ多国籍軍による終わりなき軍事介入への参加を求められる余地を、日本自らが作るのは賢明とはいえません。さらに、米国のイラクへの軍事介入に端を発した中東の戦乱拡大という情勢の下、仮に中東での日本の軍事的役割の拡大が進むとすれば、現行の平和憲法の後ろ盾を得て、様々な生活の現場で日本のNGOやボランティアグループがその地道で実直な草の根支援によって築いてきた高い評判や評価が一瞬にして水泡と帰すことにもなりかねないのみならず、これら人道支援活動家やジャーナリストを始めとする日本の民間人がテロの標的にされるリスクも格段に高まります。

    最後に、北海道には自衛隊の基地を持つ自治体が多く、北海学園大学にはそうした町の出身の学生や、そうした町に就職する学生もおり、さらに卒業生・在学生には自衛隊員もいます。そうした卒業生・在学生の生命の危険を高めかねない法案の問題点を指摘することは、大学の当然の責務でもあると考えます。

    2015年8月15日
  • 賛同教員

    計84名(五十音順、8月15日14時現在)

    浅妻裕、淺野高宏、飯野海彦、五十嵐素子、石井晴子、石月真樹、市川大祐、一條由紀、井野葉子、上野誠治、魚住純、歌代崇史、内田和浩、内山敏和、追塩千尋、大石和久、大貝健二、大森一輝、大屋定晴、岡崎敦男、岡本直貴、荻原克男、奥田仁、上浦正樹、神山義治、亀井伸照、川村雅則、北原博、熊坂亮、郡司淳、小坂直人、小田清、後藤聡、酒井博行、佐藤克廣、佐藤貴史、佐藤信、須田一弘、菅原寧格、鈴木美佐子、高木裕之、田澤義公、館田晶子、田中綾、田中洋也、谷本陽一、田村卓哉、樽見弘紀、常見信代、手塚薫、寺島壽一、徳永良次、中川かず子、中囿桐代、中根研一、仲松優子、中元啓司、中村寿司、中村敏子、新山一範、西村宣彦、野嵜久和、秦博美、速水孝夫、韓永學、平澤卓人、平野研、福士明、藤田正、古林英一、本田宏、増地あゆみ、松尾秀哉、松本広幸、水野邦彦、水野谷武志、宮入隆、元木邦俊、森下宏美、安酸敏眞、山田誠治、山ノ井髙洋、吉田敏雄、若月秀和
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